研究

新井グループ

研究概要

当科は慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)成人例を診療、研究の専門分野に掲げる世界でも数少ない施設です。CAEBVとは慢性に持続する炎症症状(発熱、リンパ節腫脹、肝機能障害、血管炎、神経所見など)を特徴とし、末梢血中にEBウイルスに感染し腫瘍性に増殖したT細胞、NK細胞の出現をみるまれな疾患です。症例は本邦を中心とした東アジアに集中しており、西洋での報告はほとんどありません。当初、小児や若年成人の疾患として報告されましたが、近年疾患の周知とともに成人例も多く存在することが明らかになってきています。私達、日本の研究者が問題を解決し、世界に情報を発信する必要があると思っています。
グループリーダーである新井文子教授は、
日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業
「慢性活動性EBウイルス感染症を対象としたJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの医師主導治験」代表研究者としてCAEBVの問題解決に取り組んでいます。

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厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「慢性活動性EBウイルス感染症と類縁疾患の疾患レジストリとバイオバンクの構築」(代表研究者 木村宏 名古屋大学教授)に分担研究者として参加し、診療ガイドライン、疾患レジストリの作成を行っています。
CAEBV患者会SHAKE(http://caebv.com/)を通じ、患者支援活動を行っています。

より良い診療のために

CAEBVの診断にはEBウイルスに感染したT,NK細胞の同定が必要で、一般検査では診断は困難です。また有効な薬物治療も確立されていません。よって、迅速正確な診断法、病態解明、治療法の開発は緊急の課題です。当科は成育医療研究センター、東京医科歯科大学と共同で迅速で正確な診断に努めております。

病気のメカニズムを明らかにし、治療法を開発するために

日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて基礎研究として病態解明と新規治療法の開発を行っています。これまでに疾患モデルマウスの作成、EBウイルスによるT、NK細胞不死化、腫瘍化の分子メカニズムを明らかにしてまいりました。また、本邦における成人例の病態の後方視的解析、造血幹細胞移植成績を論文発表しております。以上は当科の研究業績をご覧ください。さらに2019年からはルキソリチニブを用いた医師主導試験も開始しております。

医師主導治験紹介

私たちの使命

CAEBVは重篤な疾患です。欧米諸国には患者はいないため、私たち日本の研究者が病態解明を行う義務があります。ご協力をいただく患者様すべての情報を有効な治療法の開発につなげていきたいと考えております。

磯部グループ

Double-hitリンパ腫に対する新規治療の開発

細胞死への抵抗性に関わるBCL2遺伝子と細胞増殖や代謝亢進に関わるMYC遺伝子の発現増強をもたらす両遺伝子の再構成を特徴とした成熟B細胞腫瘍は通称“double-hit”リンパ腫 (DHL) と呼ばれています.DHLは造血器腫瘍のWHO分類2017で新たに“high grade B-cell lymphoma with MYC and BCL2 and/or BCL6 rearrangements”という疾患として定義されました.このDHLは非常にアグレッシブな疾患で,病理組織学的にはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) を呈する例が最も多いのですが,Burkittリンパ腫や急性リンパ性白血病のようになる場合もあります.アグレッシブB細胞リンパ腫の標準治療法とされるR-CHOP療法では,DHLの生存期間中央値は1年程度と生命予後が非常に悪く,有効な新規治療の開発が急務といえる疾患です.
当教室では,このDHLの予後不良な背景として,急性リンパ性白血病型の臨床病態を示す場合の治療成績が極端に悪いことを明らかにしてきました [1].さらに,DHLの特徴的な分子異常であるBCL2とMYCに着目し,それぞれの阻害薬に対するDHL細胞の感受性を検討したところ,DHL細胞の生存がBCL2にかなり強く依存していることを突き止めました [2].現在慢性リンパ性白血病 (CLL) の治療薬として用いられているBCL2阻害薬のvenetoclaxは,DLBCLに対する臨床効果にはばらつきがあり,DLBCLに対する治療薬として開発は進んでいません.しかしながら,venetoclaxは非常に低濃度でDHL細胞を細胞死 (アポトーシス) に誘導します (図) [2].当研究室では,今後も臨床応用に向けてvenetoclaxを中心としたDHLの新規治療法の開発を続けていきます.

(図)

  1. Uchida A, Isobe Y, Uemura Y, et al. De novo acute lymphoblastic leukemia-like disease of high grade B-cell lymphoma with MYC and BCL2 and/or BCL6 rearrangements: a case report and literature review. BMC Clin Pathol. 2017; 17: 21. doi: 10.1186/s12907-017-0060-1.
  2. Uchida A, Isobe Y, Asano J, et al. Targeting BCL2 with venetoclax is a promising therapeutic strategy for "double-protein-expression" lymphoma with MYC and BCL2 rearrangements. Haematologica. 2018 haematol.2018.204958. doi: 10.3324/haematol.2018.204958. [Epub ahead of print]

酒井グループ

造血器腫瘍には病型に特異的な染色体転座が多数あるため、染色体分析は診断する上で必須であるだけでなく発症機序の解明にも重要です。

染色体はDNAと蛋白質からなり、分裂期(M期)に凝縮し、間期(G1期・S期・G2期)には脱凝縮します。染色体分析は、細胞を短期培養し分裂期の染色体を得て、それを分染し光学顕微鏡で観察します。分染法にはいくつかありますが、主にトリプシン処理後にギムザ染色するG分染法が用いられます。

(Fig 1)

急性前骨髄球性白血病に特異的なt(15;17)(q22;q12)のG分染像です。矢印は異常な派生15番染色体と17番染色体を示しています。

染色体分析によりゲノム全体の形態学的変化を把握することができます。しかし染色体分析の対象は分裂期の細胞に限られるため、分裂細胞の少ない腫瘍からは情報が得られない場合があります。また増殖の遅い腫瘍からは解析に適した長さの染色体が得られないため、切断点が末端にある染色体転座を特定するのは困難です。

蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization、FISH)法は標的とする遺伝子を蛍光色素で可視化する手法です。プローブには塩基配列が標的遺伝子と相補的なDNA断片を蛍光標識して用い、シグナルの数と位置から標的遺伝子の増幅・欠失・再構成を検出します。

(Fig 2)

t(15;17)によりPML-RARA融合遺伝子が形成されます。PMLRARAのFISHを行うと、正常ではPMLRARAのシグナルがいずれも2個であるのに対し、急性前骨髄球性白血病では矢印で示したようなPML-RARA融合シグナルが検出されます。

FISH法は分裂期だけでなく、間期も含む細胞周期全体の情報を得ることができます。

私たちは造血器腫瘍の日常診療にG分染法とFISH法を積極的に活用しています。

1.形質細胞骨髄腫と14q32/IGH転座

形質細胞性骨髄腫(plasma cell myeloma、PCM)は免疫グロブリンを産生する形質細胞が腫瘍化し、骨髄で多発性に腫瘤を形成する造血器悪性腫瘍です。PCMの約半数が染色体14q32に位置する免疫グロブリン重鎖(immunoglobulin heavy chain:IGH)遺伝子の染色体転座を持っています。

(Table 1)

中でもt(11;14)(q13;q32)は最も頻度が高く、PCMの約15%で検出されます。t(11;14)により11q13に位置するCCND1が過剰発現しPCMが発症すると考えられています。

CD20はB細胞に特異的で、正常ではB細胞への分化が決定した段階から発現し始め、形質細胞に分化すると消失します。しかしPCMの中にはCD20を発現する例があり、t(11;14)を持つPCMで高頻度であるとする報告(Blood 102:1070-1071, 2003)と同等であるとする報告(Pathology 44:552-556, 2012)がありました。
私たちはt(11;14)を持つ自験21例を解析し、CD20が陽性となる頻度は他と同等であることを報告しました(J Clin Exp Hematop 55:137-143, 2015)。また、t(11;14)(q13;q32)はマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)の95%以上で認められる染色体転座でもあります。t(11;14)を持つMCLはCCND1を発現するだけでなく、神経組織の発達に関与する転写因子であるSOX11も発現しています。しかしt(11;14)を持つPCMは全例がCCND1陽性であったのに対し、SOX11陽性の例は認められずMCLとは異なる結果でした。

2.軽鎖型(Bence Jones型)形質細胞骨髄腫

免疫グロブリンは2本ずつの重鎖と軽鎖で構成され、IgG・IgA・IgM・IgD・IgEに分類されます。PCMは単一の免疫グロブリンを過剰に産生します(M蛋白)が、約20%は軽鎖しか産生せずBence Jones型あるいは軽鎖型PCM(Light chain PCM、LC-PCM)とよばれます。LC-PCMが免疫グロブリン重鎖を産生しない機序は解明されておらず、これまではDNAレベルの異常、転写・翻訳過程における異常、メッセンジャーRNAの不安定性、短時間での蛋白質分解などで説明されてきました。
正常ではFISHでIGH遺伝子のシグナルが2個検出されますが、私たちはLC-PCMの中にシグナルの1個が分裂し残りのシグナルを喪失した一群を見出しました。

(Fig 3)

IGH遺伝子のFISHです。正常ではIGHのシグナルは2個ですが、LC-PCMの症例では正常シグナルは検出されず分裂した5‘IGHと3‘IGHシグナルのみが観察されました。

分裂したシグナルは染色体転座に由来し、これによりIGH遺伝子の正常構造が失われます。私たちのLC-PCMはさらに他方を喪失したため免疫グロブリン重鎖を産生できなくなったと考えられます。
LC-PCMには、この“分裂と喪失(split and loss)パターン”を特徴とするサブグループが存在することを報告しました(Int J Hematol 109:572-577、2019)。

3.急性前骨髄球性白血病における分化誘導療法

急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia、APL)は急性骨髄性白血病の一病型で、t(15;17)(q22;q12)を持つことを特徴としています。この転座によりPML-RARA融合遺伝子が形成され、その産物であるPML-RARA融合蛋白によりAPLが発症すると考えられています。
APLは化学療法のみでは予後不良な病型でしたが、全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid、ATRA)を用いた分化誘導療法により治療成績が飛躍的に改善しました。APLは寛解が得られれば治癒を期待できるため、安全に寛解導入することが重要です。
ATRA療法時の末梢血中には、ATRAで分化誘導されたAPL細胞由来の白血球と正常造血の回復に由来する白血球とが混在しています。リンパ球は元来t(15;17)を持たないため、ATRAの分化誘導効果はリンパ球を除いた白血球で評価する必要があります。末梢血の白血球を核の形態から円形核細胞(Round-shaped nuclear cell、RSN)と分葉核細胞(Polymorphonuclear cell、PMN)に分けると、前者には幼弱顆粒球・桿状核球・単球とリンパ球が含まれるのに対し、後者には分葉核球のみが含まれます。

(Fig 4)

円形核細胞(RSN)と分葉核細胞(PMN)です。矢印はPML-RARA融合シグナルを示しています。

さらにFISHでPML-RARA融合遺伝子の有無を調べることにより、APL細胞の分化に由来する分葉核細胞と正常造血の回復に由来する分葉核細胞を区別することができます。以上からATRAで分化誘導される白血病細胞の動態を定性的・定量的に解析することが可能になります。この方法を用いて出血と分化症候群を減少させ、APLをより安全に寛解導入する方法を開発したいと考えています(Int J Hematol 108:274-281, 2018)。

富田グループ

研究内容

 私の主な研究テーマは血液内科で最も頻度の高い腫瘍である悪性リンパ腫における予後因子解析です。特にびまん性大細胞Bリンパ腫 (DLBCL) における中枢神経浸潤リスクについては長年の研究テーマとしており、原著や総説など多くの報告を行っております。最近ではDLBCLにおける代表的な予後因子である国際予後因子 (IPI) は中枢神経浸潤リスクの評価にも用いることが可能であることを報告しています (図1, Leukemia and Lymphoma 2018)。今後は様々な遺伝子変異が中枢神経浸潤のリスクになるかどうかを検討していく予定です。 また、Myc遺伝子とBCL2遺伝子の両方が再構成をしているリンパ腫をダブルヒットリンパ腫 (DHL) と呼びますが、私はDHLが予後不良であることを報告しました (図2, Haematologica 2009)。この報告はその後に世界中で盛んに行われるようになったDHL研究のプロトタイプにもなったと考えています。 同時期に発表した総説論文と共に2017年版のWHO分類にも引用されているのは大変光栄に感じています。これらの研究に対して2013年には横浜医学会賞をいただくことができました。今後とも悪性リンパ腫の予後改善へ向けた研究を発信していく所存です。

(図1, Leukemia and Lymphoma 2018)

(図2, Haematologica 2009)