診療

 経験豊かなスタッフが外来・入院を通し、血液疾患全般の診断・治療を行っています。本邦最大の成人白血病研究グループであるJALSG(特定非営利活動法人成人白血病治療共同研究機構 Japan Adult Leukemia Study Group)に参加し、最先端の白血病診療を行っています。悪性リンパ腫、多発性骨髄腫も日本血液学会診療ガイドラインに則った、患者さんに最適な治療を行っています。新規治療法開発も積極的に行っています。

 2023年度よりHTLV-1に感染している患者さんを対象とした専門外来を開始しました。詳細はこちら

 慢性活動性EBウイルス感染症(慢性活動性EBウイルス病、CAEBV)に対しては、厚生労働省研究班に所属、成人診療では国内の中心施設として最先端の診断、治療を行っております。詳細はこちら

 血液悪性疾患に対する根治的治療法である同種造血幹細胞移植も施行しています。造血幹細胞移植は、通常の抗がん剤治療(化学療法)や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫・造血不全症などに対して、完治(完全に治すこと)を目的として行う治療です。通常の抗がん剤治療に比べ、非常に強い副作用や合併症を生じることもあります。特に免疫力の低下に伴う感染症のリスクが増大します。
 2023年1月に開設した新病棟ではフィルターを通して清浄化された全体に空気が流れる無菌病棟が作られ、個室6室、4床部屋3室、合計18床が整備されました。無菌病棟内はすべて無菌室管理加算を算定できる病室で、血液疾患そのもの、または強力な抗がん剤治療や造血幹細胞移植により免疫力が低下した患者さんが使用しています。患者さんは無菌病棟内を自由に行動できるため、治療に伴うストレス軽減や筋力低下防止が期待できます。今後はこの無菌病棟を利用して多くの患者さんを治療し、「非血縁者間造血幹細胞移植を施行する診療科」の認定も目指しています。(当院の造血幹細胞移植についてはこちら
 当院において特に専門性高く治療を行っている「慢性活動性EVウィルス病(CAEBV)」も、同種(他人からの)造血幹細胞移植が唯一の根治療法です。CAEBVに対する私的な同種造血幹細胞移植療法の開発は、当院の診療の大きなテーマの一つです。

対象とする疾患

急性白血病  造血幹細胞が「がん化」した病気です。日本では年間人口10万人あたり約7人が発症します。正常な血液細胞が作られなくなった結果、赤血球の減少による貧血(動悸、息切れ)、血小板の減少による出血傾向(血が止まりにくい、手足に点状出血や紫斑が生じる)、白血球の減少による抵抗力の低下(熱が出やすい)などの症状が起こります。血液検査や骨髄検査により診断し、抗がん剤を用いた化学療法や造血幹細胞移植により治療します。当科では最新の診療ガイドライン(日本血液学会編集 造血器腫瘍診療ガイドライン)に基づき、病型分類に基づいた化学療法や造血幹細胞移植を行なっております。JALSG CBF-AML220試験に参加しています。
慢性白血病  血液細胞が「がん化」した病気です。日本では年間人口10万人あたり1-3人が発症します。増加する白血球の種類によって慢性骨髄性白血病と慢性リンパ性白血病に分類されます。急性白血病と比較し、経過がゆっくりであることが特徴です。病気の初期には自覚症状はなく、健康診断などで白血球増加を指摘され診断される場合が多い病気です。
 診断は血液検査で増加している白血球の形や性質を見ます。さらに骨盤や胸の骨に細い針を刺して中の骨髄を採取(骨髄穿刺)し、細胞の形や性質とともに遺伝子異常などを調べて診断します。
 治療成績は遺伝子に作用する新規薬剤の開発により画期的に改善しています。慢性骨髄性白血病は2001年にイマチニブが、慢性リンパ性白血病は2016年にイブルチニブが日本で発売され多くの患者さんに使用されてきました。最近ではさらに改良した薬剤も使用可能となり、多くの患者さんが内服治療で通常の生活ができるようになっています。
悪性リンパ腫  リンパ球は、骨の中にある「骨髄」という組織で造られ、体内に侵入してきた遺物を除去する役割を担う細胞です。悪性リンパ腫は単に「リンパ腫」とも呼ばれますが、リンパ球が「がん化」して無制限に増殖し、リンパ節やリンパ組織にかたまりを作ってくる病気です。日本では毎年35,000人程度の人が悪性リンパ腫と診断されます。多くの場合、原因は不明です。
 悪性リンパ腫の症状としては、首や脇の下、足のつけ根などのリンパ節が腫れてくることが多く、発熱や体重減少、寝汗などの症状を伴う場合もあります。悪性リンパ腫の診断には腫れているリンパ節の組織を手術で採取して顕微鏡で観察し、併せて免疫検査・遺伝子検査を行うことによって診断します。悪性リンパ腫の組織型はホジキンリンパ腫(5-10%)と非ホジキンリンパ腫(90-95%)に分けられ、後者はさらに低悪性度(ゆっくり進むタイプ)、中悪性度(速く進むタイプ)、高悪性度(直ちに治療が必要なタイプ)に分けられます。悪性リンパ腫は全身のどの部位にも広がる可能性があるため、治療を開始する前に採血検査、画像検査(CT や PETなど)、骨髄検査などを十分に行なって病気が存在する部位を確認しておくことが重要です。
 組織型や病気の広がり具合(ステージ)によって治療法は異なりますが、化学療法 (抗がん剤の治療)が中心となります。抗体療法(リツキシマブ、ポラツズマブなど)を併用したり、放射線治療を組み合わせたりすることもあります。化学療法の1コース目の治療は入院が必要ですが、2コース目以降は外来通院で行います。治療は通常、5ヶ月程度かかります。再発した場合には造血幹細胞移植(自家移植・同種移植)が行われる場合もあります。
多発性骨髄腫  異物が体内に侵入すると、リンパ球の一つであるB細胞は刺激を受けて形質細胞に分化します。形質細胞は抗体を作り、異物から身体を守る働きをしています。形質細胞が「がん化」した病気が多発性骨髄腫です。高齢者に多く、日本では年間人口10万人あたり6人が多発性骨髄腫になります。多発性骨髄腫では、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)が役に立たない抗体であるMタンパクを大量に作ったり、骨髄中で異常に増殖したりします。原因は不明です。
 血液検査と尿検査でMタンパクの有無や、臓器が障害を受けていないかを確認します。多発性骨髄腫の疑いがある場合には骨髄検査を行なって診断を確定します。
 多発性骨髄腫は無性構性と症候性に分けられます。無症候性の場合には直ちに治療を行わずに定期的な検査を行い、症候性となった場合には治療を行います。症候性とは、「カルシウムが高くなる」「腎臓が悪くなる」「貧血が進行する」「骨の病変がある」という状態のいずれかがあるものを指しますが、このような場合には治療が必要です。治療は化学療法(抗がん剤の治療)が中心となります。抗体療法(ダラツムマブ、イサツキシマブなど)を併用することもあります。比較的若い患者さんの場合、自家造血幹細胞移植を治療に組み込む場合もあります。多発性骨髄腫は完全に治癒させることの難しい病気ですので、主に症状をコントロールする治療を行います。初回の化学療法や治療法変更の場合には一時入院が必要ですが、治療の主体は外来となります。
再生不良性貧血  白血球・赤血球・血小板が減少する病気です。血液検査や骨髄検査により診断し、免疫抑制療法や造血幹細胞移植により治療します。病気の重症度により治療法を決定します。日本では年間約1000人が発症するといわれています。当科では再生不良性貧血に対する免疫抑制療法や造血幹細胞移植を行なっております。再生不良性貧血は国の指定難病で、認定されると医療費助成を受けられる制度があります。詳しくはこちら
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)  赤血球膜の抗原に対する自己抗体が産生され、赤血球が破壊された結果(溶血)、貧血をおこす疾患です。抗体の種類により、温式と冷式に分類されます。日本では年間数百人が発症するといわれています。
 温式AIHAは体温付近の温度で赤血球が破壊されます。原因不明の本態性と悪性リンパ腫・全身性エリテマトーデス他に続発するものがあります。副腎皮質ステロイドが著効します。続発性の場合には原病の治療が行われます。
 冷式AIHAは体温以下(4℃)の温度で赤血球が破壊されます。寒冷凝集素症には本態性と悪性リンパ腫・伝染性単核球症・マイコプラズマ肺炎に続発するものがあります。本疾患は溶血症状だけでなくレイノー症状を呈するものもあります。治療は保温と原病の治療が主ですが、2022年、寒冷凝集素症に対する新しい治療薬として、C1 複合体セリンプロテアーゼの C1s 蛋白に対する抗体、スチムリマブが承認されています。
 AIHAは国の指定難病で、認定されると医療費助成を受けられる制度があります。詳しくはこちら
免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)  血小板は、血液細胞の1つで出血を止める役割があります。ITPとは、血小板に対する自己抗体が作られ、血小板が壊され数が減少した結果、出血しやすくなる病気です。成人におけるITPの発症率は、1年間に10万人あたり2.6人と推計されています。好発は成人女性(20~40歳)と高齢者(60歳~90歳)です。
 診断には、血液検査で、血小板数が減っていることを確認し(10万/μL以下)、再生不良性貧血や白血病などの血液疾患、薬剤、自己免疫性疾患、感染症等、他の原因を除外します。血小板が2万/μLを下回る場合や出血症状がある場合に治療が必要とされます。ピロリ菌感染に伴って起こることがあります。その場合は除菌治療を行います。ピロリ菌感染がない場合や、除菌しても血小板数の改善が見られなかった場合には副腎皮質ステロイドを使用します。無効な場合や副作用で継続困難な場合には、トロンボポエチン受動態作動薬、脾臓摘出、免疫グロブリン、リツキシマブ、などを行います。
 特発性血小板減少性紫斑病は、国の指定難病で、認定されると医療費助成を受けられる制度があります。詳しくはこちら
血栓・止血疾患  皮膚の点状出血や紫斑、鼻出血の症状が繰り返す場合には血小板の異常が疑われます。関節や筋肉内の血種や血尿などでは凝固因子の異常の場合があります。これらの疾患は先天性の疾患と後天性の疾患があるので、家族歴や発症時期などが大切な情報となります。
 出血傾向の診断は出血時間を測定し正常であれば凝固系の疾患を考えます。PT、APTT、FDPなどの検査を行い凝固因子異常や線溶系異常を鑑別します。凝固系の異常は血友病や播種性血管内凝固異常症候群(DIC)があります。出血時間が延長する場合には血小板異常を考えます。血小板数が低下する場合には白血病や特発性血小板減少性紫斑病、薬剤性などがあります。それぞれの疾患に対し、治療を行います。
成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)  HTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type I:ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、ヒトのT細胞(リンパ球の一種)に感染するレトロウイルスの一つです。HTLV-1は感染しても特に症状はなく、感染した人の約95%は生涯にわたりHTLV-1感染が原因となって起こる病気を発症しません(HTLV-1キャリア)。詳細はこちら
よくわかるHTLV-1(厚生労働省)
HTLV-1情報ポータルサイト
 ATLはHTLV-1に感染したT細胞が長い年月をかけてがん化することによって起こる病気で、白血病・リンパ腫の一つです。ATLは、血液中の異常リンパ球数、リンパ球数、LDH(乳酸脱水素酵素)やカルシウムの増加、腫瘍の部位により、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4つの病型に分類されます。急速に症状が進行することが多い、急性型、リンパ腫型、予後不良因子のある慢性型は「アグレッシブATL」とよばれ、早急に抗がん剤による化学療法が行われます。一方、比較的経過が緩やかである、予後不良因子がない慢性型とくすぶり型は「インドレントATL」とよばれ、厳重な経過観察、皮膚病変に対する局所治療が行われます。そのため、適切に病状を判断して治療方針を検討することが大切です。詳細はこちら
成人T細胞白血病リンパ腫(国立がん研究センターがん情報サービス)
 2023年度よりHTLV-1に感染している患者さんを対象とした専門外来を開始しました。詳細はこちら
慢性活動性EBウイルス感染症(慢性活動性EBウイルス病、CAEBV)  EBウイルスが、普段は感染しないT細胞、NK細胞(白血球のひとつ、リンパ球の種類)に感染した結果、感染した細胞が増え、かつ勢いをましてさまざまな炎症症状(持続する発熱、肝機能障害、リンパ節腫脹、脾臓の腫大、ぶどう膜炎、皮膚炎など)を起こす病気です。進行し、生命にかかわります。根治のためには造血幹細胞移植が必要です。
 当科では、成人CAEBV専門外来を開設しています。詳細はこちら

専門外来

成人CAEBV専門外来 慢性活動性EBウイルス感染症(慢性活動性EBウイルス病、CAEBV)の専門外来では診断、治療、治療法開発を行っています。
詳細はこちら
ATL・HTLV-1キャリア外来 2023年度よりHTLV-1に感染している患者さんを対象とした専門外来を開始しました。
詳細はこちら

外来診療実績 患者数(内新規患者数)

2015年度 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
急性白血病 86 (20) 72 (16) 63 (15) 65 (11) 63 (16) 52 (13) 59 (10) 40 (11)
ホジキンリンパ腫 16 (5) 19 (3) 20 (3) 23 (4) 16 (1) 27 (5) 28 (2) 30 (4)
非ホジキンリンパ腫 450 (53) 454 (78) 475 (62) 485 (60) 503 (88) 486 (72) 506 (76) 478 (52)
骨髄腫・アミロイドーシス 73 (16) 75 (16) 79 (12) 86 (16) 98 (16) 88 (16) 102 (21) 101 (15)
骨髄異形成症候群 128 (16) 128 (13) 115 (5) 109 (18) 110 (24) 88 (23) 82 (17) 70 (8)
慢性白血病 106 (16) 100 (6) 110 (14) 113 (3) 110 (8) 52 (6) 91 (14) 77 (1)
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV) - - 0 0 2   (2) 3   (3) 10 (5) 8   (5)
EBウイルス関連疾患 - - - - - - - 12 (7)
骨髄増殖性疾患 - - - - - - - 112 (9)
血球減少 - - - - - - - 208 (25)
その他の血液疾患 - - - - - - - 89 (11)
診断名なし - - - - - - - 125 (83)
血液疾患以外の疾患 - - - - - - - 115 (106)
移植ドナー - - - - - - - 4   (4)
その他 - - - - - - - 1   (1)
合計 - - - - 1563 (352) 1580 (457) 1687 (494) 1470 (342)

入院患者数

2015年度 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
急性白血病 - 41 50 54 60 49 31 47
ホジキンリンパ腫 - 7 5 11 8 13 2 11
非ホジキンリンパ腫 - 159 136 141 152 153 171 148
骨髄腫・アミロイドーシス - 14 35 39 21 27 25 15
骨髄異形成症候群 - 10 14 20 22 16 6 10
慢性白血病 - 7 12 8 2 6 6 1
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV) - - - - 1 6 8 11
EBウイルス関連疾患 - - - 1 0 0 0 0
骨髄増殖性疾患 - 4 6 1 4 4 5 1
血球減少 - 13 15 22 11 19 10 4
その他の血液疾患 - 9 7 7 2 6 3 2
血液疾患以外の疾患 - 24 25 26 20 25 23 25
移植ドナー - 4 1 1 0 6 7 7
その他 - 3 - 1 3 1 0 0
合計 - 295 306 332 306 331 297 282

造血幹細胞移植

 造血幹細胞移植は、通常の抗がん剤治療(化学療法)や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫・造血不全症などに対して、完治(完全に治すこと)を目的として行う治療です。通常の抗がん剤治療に比べ、非常に強い副作用や合併症を生じることもあります。特に免疫力の低下に伴う感染症のリスクが増大します。


無菌室

 2023年1月に開設した新病棟ではフィルターを通して清浄化された全体に空気が流れる無菌病棟が作られ、個室6室、4床部屋3室、合計18床が整備されました。無菌病棟内はすべて無菌室管理加算を算定できる病室で、血液疾患そのもの、または強力な抗がん剤治療や造血幹細胞移植により免疫力が低下した患者さんが使用しています。患者さんは無菌病棟内を自由に行動できるため、治療に伴うストレス軽減や筋力低下防止が期待できます。今後はこの無菌病棟を利用して多くの患者さんを治療し、日本造血・免疫細胞療法学会(JSTCT)が定めた「非血縁者間造血幹細胞移植を施行する診療科」の認定取得も目指しています。
 当院において特に専門性高く治療を行っている「慢性活動性EVウィルス病(CAEBV)」も、同種(他人からの)造血幹細胞移植が唯一の根治療法です。CAEBVに対する私的な同種造血幹細胞移植療法の開発は、当院の診療の大きなテーマの一つです。
 造血幹細胞移植について、詳しくはこちらをご覧ください。

造血幹細胞移植実績

2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
自家移植 末梢血 1 4 2 3 5 2 1
同種血縁移植 末梢血 1 1 0 0 3 4 3
同種非血縁移植 末梢血 0 0 0 0 0 0 0
骨髄 0 0 0 0 0 0 0
臍帯血 0 0 0 0 0 0 0

外来担当表

外来担当表はそれぞれの病院ホームページをご覧ください

受診ご希望の方

セカンドオピニオンをご希望の方