研究

CAEBV(慢性活動性EBウイルス感染症)

CAEBVはどんな病気?

 「慢性活動性EBウイルス感染症(chronic active Epstein-Barr virus infection)」、略してCAEBVは、稀で治療の難しい疾患です。EBウイルスが白血球の一つであるリンパ球、そのうちのT細胞あるいはNK細胞に感染し、何らかの原因で感染した細胞が徐々に増えることによって発症すると考えられています。増えたT細胞、NK細胞はやがて一部が腫瘍(がん)の性質を持つようになり、リンパ腫、白血病へと進行していきます。もともとT細胞、NK細胞は、体に入ってくる様々な病原体を直接攻撃したり、サイトカインという物質(発熱や炎症をおこす原因の一種の蛋白質)を出すことでマクロファージという免疫担当細胞を刺激し、それらの病原体や感染した細胞を食べてもらったりすること(貪食、どんしょく)で、体を守ってくれる力強い細胞です。そのため、それらの細胞が腫瘍になると増えるだけでなく、働きが強まり(活性化し)、サイトカインが作られ、発熱やだるさなど、さまざまな炎症症状が出てきます。さらに、EBウイルスが感染した細胞は、それ自身はもちろん、他のリンパ球の働きも強めて(活性化)しまいます。そのため、強い炎症反応(感染症や膠原病の時のような発熱やリンパ節のはれ)が起こります。つまりCAEBVは腫瘍としての性質と、炎症性疾患としての性質を持っていることが大きな特徴です。

 EBウイルスは通常はリンパ球のうちのB細胞に感染します。では、なぜ、CAEBVの患者さんではEBウイルスがT細胞、NK細胞に感染するのでしょうか。なぜ腫瘍化し、強い炎症を伴うようになるのでしょうか。その詳しいメカニズムはまだわかっていません。

 病気を治すためにはEBウイルスに感染し、腫瘍の性質を持った、あるいは持ちつつある細胞を根絶やしにする必要があります。そのためリンパ腫同様に、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法を行います。ところがこの病気は、抗がん剤が効きづらいことがわかってきました。残念ながらEBウイルスに感染した細胞を根絶やしにできるような薬は、まだ開発されていません。現在、唯一の有効な治療は造血幹細胞移植、いわゆる骨髄移植ですが、移植を受けられる患者さんは限られています。

 病気の仕組みを明らかにし、薬による有効な治療法を開発しなくてはなりません。CAEBV患者は日本、中国、韓国など東アジアに集中し、欧米ではほとんど見られないと言われています。だからこそ日本の研究者、医師がこの問題を解決する必要があるのです。

目的

 CAEBVに対する、有効な薬物治療法を確立する

活動

1.CAEBV患者の診療

 CAEBVの診断にはEBウイルスに感染したT, NK細胞の同定が必要で、一般検査による診断は困難です。当科は国立成育医療研究センターと共同し、迅速で正確な診断に努めています。

診療場所 聖マリアンナ医科大学病院 血液内科
診療時間 毎週月曜 9:00~16:00(成人CAEBV専門外来)

診療をご希望の方は、大学病院の診察を予約してください。予約方法はこちら
セカンドオピニオンをご希望の方は、大学病院の申込方法をご覧ください。申込方法はこちら

2.CAEBVが起こるしくみの解明

 2022年より日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「新規核酸医薬を用いた難治性血液疾患の病態解明」研究代表者として、CAEBVの発症機序を解明するべく研究を重ねています。これまで疾患モデルマウスの作成、EBウイルスによるT、NK細胞不死化、腫瘍化の分子メカニズムを明らかにしてまいりました。本邦における成人例の病態の後方視的解析、造血幹細胞移植成績も論文発表しております。以上は当科の研究業績をご覧ください。

3.CAEBVに対する治療法の開発

 薬物治療が確立されていないCAEBVは迅速正確な診断、病態解明、治療法の開発が緊急の課題です。2018年から日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「慢性活動性EBウイルス感染症を対象にJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの有効性、安全性を確認する医師主導治験」を実施しました。

 2022年より日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「診療ガイドライン掲載のためのエビデンス創出を目指した慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患のレジストリ強化・病態解析・治療法の開発」研究代表者として新たな治療薬開発を行っています。結果は随時研究業績に公開します。

4.CAEBVの診断基準、診療ガイドラインの作成

 厚生労働科学研究 難治性疾患政策研究事業「慢性活動性 EBV 病の疾患レジストリ情報に基づく病型別根治療法の確立」班員として作成しました。2016年に発行された診断基準はこちら

 2023年に行われた診療ガイドラインの改訂にも参加、『慢性活動性EBウイルス病とその類縁疾患の診療ガイドライン2023』が発刊されました。私達の論文成果を反映することができました。

5.CAEBV患者会の支援

 CAEBV患者会SHAKEの活動を支援しています。

最後に

 臨床現場、患者さんの状況は待ったなしです。一日も早く有効な治療法を確立するため努力を重ねてまいりますので、ご支援をよろしくお願いいたします。

 一緒に研究してくださる方、大学院生を随時募集しております。お気軽にご連絡ください。

聖マリアンナ医科大学 血液・腫瘍内科
主任教授 新井文子
ara.hema@marianna-u.ac.jp

英語版はこちら

悪性リンパ腫における予後因子解析

リード

富田直人教授

研究内容

 私の主な研究テーマは血液内科で最も頻度の高い腫瘍である悪性リンパ腫における予後因子解析です。特にびまん性大細胞Bリンパ腫 (DLBCL) における中枢神経浸潤リスクについては長年の研究テーマとしており、原著や総説など多くの報告を行っております。最近ではDLBCLにおける代表的な予後因子である国際予後因子 (IPI) は中枢神経浸潤リスクの評価にも用いることが可能であることを報告しています (図1, Leukemia and Lymphoma 2018)。今後は様々な遺伝子変異が中枢神経浸潤のリスクになるかどうかを検討していく予定です。 また、Myc遺伝子とBCL2遺伝子の両方が再構成をしているリンパ腫をダブルヒットリンパ腫 (DHL) と呼びますが、私はDHLが予後不良であることを報告しました (図2, Haematologica 2009)。この報告はその後に世界中で盛んに行われるようになったDHL研究のプロトタイプにもなったと考えています。 同時期に発表した総説論文と共に2017年版のWHO分類にも引用されているのは大変光栄に感じています。これらの研究に対して2013年には横浜医学会賞をいただくことができました。今後とも悪性リンパ腫の予後改善へ向けた研究を発信していく所存です。

(図1, Leukemia and Lymphoma 2018)

(図2, Haematologica 2009)


KMT2A(MLL)白血病の新規治療の開発

リード

玉井勇人教授

研究課題

KMT2A(MLL)白血病の新規治療の開発

研究概要

 KMT2A(MLL)白血病は染色体11q23に座位するMLL(Mixed Lineage Leukemia)遺伝子異常を有する白血病の総称であり、小児から成人まで幅広く見られる白血病です。概ね極めて予後不良で知られ、集学的治療をもっても治癒を得られることは極めて稀な疾患で、新規治療が切望されています。私はこのKMT2A(MLL)白血病の新規治療の開発に取り組んでいます。

臨床目線からの研究

 自分が医師になろうと思ったのは小学校入学前に友人が白血病で亡くなった時からであり、自分の執念深さが幸か不幸か現在の血液内科医であることを選ばせました。私が血液内科になり特に興味を惹かれたのは造血幹細胞移植でした。世間では夢の治療ともてはやされる造血幹細胞移植ですが必ずしも実情はそうではありません。患者さんを絶体絶命の危機から救いあげることが出来る時もあれば、時に治療に伴う強烈な合併症に患者さんを失う、また漸く治癒を得たと思っても再発を認めることがしばしばあり、まさに天国と地獄を味わう治療であるといえます。この治療に精魂傾けている間に出会った疾患がKMT2A(MLL)白血病です。
 KMT2A(MLL)白血病は染色体11q23に座位するMLL(Mixed Lineage Leukemia)遺伝子異常を有する白血病の総称であり、小児から成人まで幅広く見られる白血病です。極めて予後不良で知られ、集学的治療をもっても治癒を得られることは極めて稀な疾患です。私は研修医時代にこの疾患の患者さんを2名担当し、2名とも第一寛解期に移植を行い成功し1年以上寛解を維持出来喜んでおりましたが、その後残念ながら再発してしまいました。この経験は自分にとって衝撃で、KMT2A(MLL)白血病は造血幹細胞移植の効果を逃れる何らかの仕組みを持っているに違いないと直感的に確信しました。この臨床医として得たこの直感を形にしてKMT2A(MLL)白血病の克服につなげなければという妙な使命感が湧いて、この疾患の研究に取り組み始めました。

これまでの主な研究成果

 KMT2A(MLL)白血病患者さんの遺伝子からKMT2A(MLL)白血病モデルマウスを完成し(図1)、その解析によりKMT2A(MLL)白血病はS100A6というカルシウム結合蛋白発現を介して移植後の重要な効果を担う移植片対白血病効果(他人由来の免疫細胞で残存白血病病変を攻撃する効果)を免れているということを発見し自分の直感を形にすることが出来ました(図2)。最終的にこのKMT2A(MLL)白血病のもつS100A6を介した移植片対白血病効果を免れる機構を解除しマウスモデルでのKMT2A(MLL)白血病治療に成功しました。一連の成果は米国血液学会や欧州血液学会で発表し最終的に下記雑誌1-4に採択されました。

図1: 我々が開発したMLL/AF4Tgマウスは生後12カ月で急性リンパ性白血病(ALL)を発現する。
図1: 我々が開発したMLL/AF4Tgマウスは生後12カ月で急性リンパ性白血病(ALL)を発現する。
A:末梢血ALL像 B:末梢血細胞表面マーカー

(文献1改変)

図2:MLL/AF4によるS100A6発現上昇を介したGVL効果への抵抗性(左通常ALL 右MLL/AF4陽性ALL)の機序
図2:MLL/AF4によるS100A6発現上昇を介したGVL効果への抵抗性(左通常ALL 右MLL/AF4陽性ALL)の機序
MLL/AF4陽性ALLではTNFαの刺激を受けるとS100A6が活性化し、P53の活性化(アセチル化)をブロックしアポトーシスの進行を阻止する。

(文献3改変)

今後の目標:研究成果の臨床への還元

 これらの成果を現実的にKMT2A(MLL)白血病の患者さんの治療に還元することが自分の夢です。患者さんに使用するハードルを下げるため、既存の薬剤にS100A6を抑制する薬剤がないか試行錯誤し、抗アレルギー薬amlexanoxにKMT2A(MLL)白血病のもつS100A6を介した移植片対白血病効果を免れる機構を解除する可能性を見出し下記雑誌5に採択されました。併せてKMT2A(MLL)白血病の多施設共同研究結果、またKMT2A(MLL)白血病の治療過程で得た予後改善への手がかりの発信も下記雑誌6-10のように積極的に行っています。今後実際の現場でのKMT2A(MLL)白血病の治療に応用できるよう臨床医目線からさらに研究を進めて参ります。

KMT2A(MLL)白血病研究に関する業績

  • 1: Tamai H, et al. Activated K-Ras protein accelerates human MLL/AF4-induced leukemo-lymphomogenicity in a transgenic mouse model. Leukemia. 2011;25: 888-91.
  • 2: Tamai H, et al. AAV8 vector expressing IL24 efficiently suppresses tumor growth mediated byspecific mechanisms in MLL/AF4-positive ALL model mice. Blood. 2012;119: 64-71.
  • 3: Tamai H, et.al. Resistance of MLL-AFF1-positive acute lymphoblastic leukemia to tumor necrosis factor-alpha is mediated by S100A6 upregulation. Blood Cancer J. 2011;1: e38. doi: 10.1038/ bcj.2011.37.
  • 4: Tamai H, et al. Inhibition of S100A6 induces GVL effects in MLL/AF4-positive ALL in human PBMC-SCID mice. Bone Marrow Transplant. 2014;49: 699-703.
  • 5: Tamai H, et.al. Amlexanox Downregulates S100A6 to Sensitize KMT2A/AFF1-Positive Acute Lymphoblastic Leukemia to TNFα Treatment. CancerRes.2017;77:4426-4433.
  • 6: Tamai H, et al. Treatment of relapsed acute myeloid leukemia with MLL/AF6 fusion after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation with gemtuzumab ozogamicin with a long interval followed by donor lymphocyte infusion. Leukemia. 2008;22(6):1273-4.
  • 7: Tamai H, et al. Clinical features of adult acute leukemia with 11q23 abnormalities in Japan: a co-operative multicenter study. Int J Hematol. 2008;87(2):195-202.
  • 8: Tamai H, et al. Treatment of adult AML with t(6;11)(q27;q23) by allogeneic hematopoietic SCT in the first CR. Bone Marrow Transplant. 2008;42(8):553-4.
  • 9: Tamai H, et al. The prognosis and treatment of adult acute leukemia with 11q23/MLL according to the fusion partner. Current Cancer Therapy Reviews. 2009;5:227-231.
  • 10: Tamai H, et al. 11q23/MLL acute leukemia:update of clinical aspects. J Clin Exp Hematop. 2010;50(2):91-8.

当科で行っている基礎研究、臨床研究

承認番号 ゲノム
番号等
課題名 試験実施形態 研究代表施設
・受託企業等
実施施設 現在の
ステータス
UMIN等の登録ID
第1324号 疫学調査「血液疾患登録」 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
日本血液学会
大学・大学病院、西部病院 実施中
第3553号 遺187号
SMU0073
慢性期慢性骨髄性白血病患者における無治療寛解を目指したダサチニブ治療第Ⅱ相試験 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
日本医科大学血液内科
大学・大学病院 実施中 UMIN000022254
第3598号 CD5陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫における遺伝子発現解析と遺伝子変異の検討 (PEARL5試験の附随研究) 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
久留米大学病理学講座
大学・大学病院 実施中 UMIN000008507
第4025号 神奈川県合同輸血療法委員会による貯血式自己血輸血の将来予測 多施設共同試験
(本学分担)
※日本自己血輸血学会臨床研究補助金
【代表機関】
横浜市立大学附属市民総合医療センター
大学・大学病院 実施中 -
第4042号 造血細胞移植および細胞治療の全国調査 多施設共同試験(本学分担) 【代表施設】
日本造血細胞移植学会
大学・大学病院 実施中
第4126号 びまん性大細胞Bリンパ腫の診断時PET/CTと骨髄生検の比較検討 多施設共同試験
(本学代表機関)
【分担施設】
ゆうあいクリニック、東海大学医学部
大学・大学病院 実施中 -
第4627号 慢性活動性EBウイルス感染症患者におけるQOL(生活の質)実態調査 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
東京医科歯科大学
大学病院 実施中 -
第4668号 慢性活動性EBウイルス感染症の実態国際調査 多施設共同試験
(本学代表機関)
【分担施設】
Sungkyunkwan University School of Medicine Samsung Medical Center・U.S. National Institutes of Health
大学 実施中 -
第4709号 造血器腫瘍の発症と進展および治療反応性制御機構の研究 単施設
(本学のみ)
- 大学・大学病院 実施中 -
第4753号 遺223号 慢性活動性EBウイルス感染症原因遺伝子の探索 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
成育医療研究センター
大学・大学病院 実施中 -
第4804号 遺224 慢性活動性EBウイルス感染症発症の背景因子としての細菌叢の意義 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
東京医科歯科大学
大学・大学病院 実施中 -
第4805号 遺225 健常若年成人におけるEpstein-Barrウイルス感染実態の検討 多施設共同試験
(本学分担)
【代表施設】
東京家政大学
大学 実施中 UMIN000032099